「うぅ〜・・・寒ぃ・・・」
日中は太陽の光が入って温かかった部屋も、日が沈みかけると急激に寒くなる。
椅子の背に脱ぎっぱなしになっていた上着に手を伸ばし、躊躇う事無く袖を通した。
「うわぁっ〜」
するとさっきまでソファーで雑誌を眺めていたチャンが嬉しそうな声を上げて窓を開けた。
「お〜い・・・風邪ひくぞ?」
「見て、悟浄!!雪!」
「雪ぃ?」
火もついていない煙草を口にくわえながらチャンの隣に立ち、空を見上げれば細かい雪が降ってきていた。
こりゃ寒いはずだわ。
寒気を感じてブルルッと身震いさせながら、温かな部屋の中へ戻ろうとするオレの背にチャンの声がかかる。
「悟浄。」
「あ?」
「雪が何で人の手の上に落ちると溶けるか知ってる?」
「・・・ナニ、なぞなぞ?」
「違うけど・・・。ね、知ってる?」
大きな目で楽しそうに微笑みながら手の平で受け止めた雪をオレの前に見せる。
するとそれは当たり前のように、チャンの体温で溶けて・・・消えた。
「ンなのあれだろ?雪は氷の結晶だから、人の体温で溶ける・・・そんだけだろ?」
「・・・夢がないなぁ。」
「生憎雪に夢を持つようなロマンチストじゃねェのよ。」
チャンの髪をくしゃくしゃっと撫で回し、開けっ放しの窓を閉めようと手を伸ばす。
するとその手をチャンに掴まれ、自然と視線が彼女の方へ向く。
「チャン?」
「あのね、雪は恥ずかしがり屋さんなの。」
「はぃ?」
「本当は自分を見て欲しいって思って、何にも染まらない白い姿でやってくるんだけどね。いざ、人の手の平に乗ったら、あんまりにもその人が温かくて・・・恥ずかしくてそのお洋服を脱いじゃうの。」
「・・・脱ぐ方が恥ずかしいンでない?」
「それは人間の場合でしょ?」
クスクス笑いながら掴んでいたオレの手を窓の外に出し、その手の平に雪を受け止めさせる。
「ほら、悟浄が温かいから雪が照れてるよ?」
「・・・」
手の平に白い雪は跡形もなく、あるのはその残骸とも言うべき水だけ・・・
こういう時、なんて言えばいいンだ?
ただ当たり前のように受け止めていた現実を
別の角度から見る、彼女の言葉が・・・
胸に ――― 沁みる
ケド、素直じゃないオレの口は、無意識にこんな事を呟いた。
「ンじゃ、雪が降り積もるのはナンで?」
折角可愛い笑顔を見せてくれてたのに、曇らせてしまうかもしれない問いに・・・彼女は更に眩しい笑顔で答えてくれた。
「一人だと恥ずかしくても、皆でいれば大丈夫なんだよ。」
「・・・」
「それに、大地がしっかり支えててくれるからね。地面が背中を支えてくれて、不安げな雪が精一杯その姿を見せてくれるの。」
「・・・」
「・・・って、やっぱオカシイ、かな?」
「・・・」
あ〜・・・ヤバ。
今もっっのすんごく・・・抱きしめたいってカンジ?
ケドなぁ、八戒が台所にいるし
こんなトコ、アイツに見られたら絶対外におっぽり出されるよな。
冷静に頭で考えるのとは裏腹に、オレの素直な欲望は既にチャンを腕にしっかり抱きかかえていた。
「ごっ悟浄!?」
「何をやってるんですか。」
「・・・あ゛」
気づいた時には腕の中で真っ赤な顔をして困った顔したチャンと・・・それはもう素敵な笑顔を浮かべた八戒が後ろに立っていた。
でもって、予想通り。
あっという間にチャンから引っぺがされたオレは、着の身着のまま雪降る屋外に放り出された。
「・・・〜っくしょん!ちくしょう!」
椅子にかけてあった上着を羽織っていたダケまだマシか。
白い息を吐きながら、今日は入れて貰えないであろう家に背を向け、町に続く道をゆっくり歩き出した。
空を見上げれば、恥ずかしがり屋の雪達がオレを慰めるように降り注ぐ。
そして、腕の中には真っ赤な顔をしたチャンの微かな温もり。
――― ほら、悟浄が温かいから雪が照れてるよ?
「初めて言われたっての・・・そンなの。」
大きく伸びをして、最後にもう一度家を振り返る。
「雪より、チャンの方が照れてたみたいだったな。」
その呟きは、決して彼女には届かない。
だから、今は空から舞い降りる雪達にだけ、伝えよう。
――― 愛しい、と
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はーい、この話も書いたのは去年で〜す(笑)
すぐにUPすれば無問題だったんだけど、気付いたら桜の時期になっちゃって・・・時期がずれたから一年熟成しました♪
・・・ま、熟成したから良い話になってるかどうかってのは関係ないと思いますけどね(苦笑)
という訳で、久し振りのうたた寝更新!さーてあと何回更新出来るかな(苦笑)
でもって、大好きな話というか、雰囲気の話です。
今こうするとヤバイって分かってても、手が出ちゃった悟浄がそりゃもう可愛くて(笑)
でもってそのまま外に放り出す八戒がまた素敵で(笑)
・・・私の好きな二人をどういう風に考えてるんでしょう?(苦笑)
出来れば冬の空気が寒い日、雪がしんしんと降ってる時に読んで貰えると嬉しいな。